ヴァンタン・二十歳の誕生日

 (そうだ。チビが私だって言うことは帰れたってことなんだ。ねえ、そうでしょうお・ね・え・さん?)


私はもう一度立ち上がった。


(パパのために戦おう。チビのために戦おう。そして何より、母のために戦おう。お母さん待っていて、必ずパパを連れて帰るからね!!)


私は鏡の向こう側にいる母と……
自分に言い聞かせるためにもう一度誓いを立てた。




 目の前に転がっていたサーベルを、骸骨に向けて投げた。

それが足に当たり腰砕けのまま移動して来る。
その恐ろしい形相に私は腰を抜かしていた。


――バッシンー!!

其処へチビのサーベルが唸った。


チビから援護を受けるなどと思いもよらなかった。
私はチビが成長して行く姿にマジで感動していた。


でも感傷に浸っている場合ではなかった。

目の前にはまだ相当数の骸骨が隙を狙うかのように徐々に間合いを詰めていた。




 サーベルがボロボロになっていた。


「お姉さんこれっ!!」

私が途方に暮れていたら、新しいのが飛んで来た。
チビが手元にくるように投げてくれたのだ。


「ナイス!」

私はチビに向かってウインクを送った。


チビはどんどん大人になって行く。


(負けられない)
私は何故か焦っていた。


(―馬鹿だな。何遣ってんだろう? チビを守ると決めたのに……反対に守られている)

私は何故かそれが急に誇らしくなっていた。


「真面目だね」

私はチビを称えた。


「ありがとう。チビ、あんた格好いい!」


(そうだった。私はおだてに弱かった。だからフェンシングだって……)


私は父に指導を受けた日々を思い出していた。


(でも何故今私は遣っていないのだろう?)

考えても判るはずなどなかった。


それはきっと母の……

それはきっと母を悲しませまいとした行動……

パパの居ない寂しさを、パパの思い出で上乗せしたくなかったからだろう。




 戦いながら逃げる方法を考えた。


屋根裏部屋の魔法の鏡にたどり着くためには、港から歩かなければならない。

それは解っていた。


でも何処をどう歩いて来たかかなんて解るはずがなかった。


(何とかしなくちゃ! パパを助け出しても助からなくなる)

私はパパに目をやった。


パパは合わせ鏡を開いていた。


そしてそれを満月に向かって差し出した。


その時。
トップライトにあるはずの魔法の鏡が、甲板にあるガラスに写った。