ヴァンタン・二十歳の誕生日

 「パパは船長だから……、だから大丈夫だよ」

そう言いながらパパが泣いていた……
私達を守ろうとして強がりながら。


私はパパの気持ちが何となく解った。


私はチビの手をパパから離した。


チビの目が私を睨んだ。
それでも私はチビの手を取って逃げ出した。


「気をつけろよ!!」
パパが叫ぶ。

私は大きく頷いた。




 逃げても逃げても追ってくる骸骨達。

船の中はさながら地獄のようだった。


それでもパパの安否が心配だった。
チビは操舵室を時々覗きに来る。

いや、チビはすぐに戻って行く。


少しでも離れたくなかったのだ。


(気持ちはとっても良く解る。でも、今は非常事態なんだよ)

私は心を鬼にしなければならなかったのだ。




 そして遂にキャプテンバッドが目を覚ます。


その光景をまばたきもしないで見詰めた私達。

でもそれをキャプテンバッドは見逃さなかった。




 何時かゲームで貰った、海賊船長の骸骨の様なのが追いかけて来る。


(逃げ切れるだろうか?)


パパは足かせのために動けるはずがなかった。
それでもパパの近くにキャプテンバッドが居なくなったことは確かだった。




 余りに急いでいたためだろうか。
私は足のバランスを崩して倒れていた。

チビも一緒に転んでいた。


でもチビは転んでもただでは起きてこなかった。

その手には、しっかりとサーベルが握られていた。




 何時かオリンピックで見た、フェンシング。

見様見真似てサーブルを構えたあの日。
私はパパの弟子になった。

そうだ。
私はパパにフェンシングを習っていたのだ。


何故今まで忘れていたのだろう?
雅と観戦した時に感じた違和感が今繋がった。


フェンシングは英語のフェンスが語源だとパパが言っていた。


(フェンス……? つまり守るってことかな? そうだ! パパとチビを守るのがきっと私の使命だったんだ!)




 チビの言った『ボンナバン』を思い出す。

私も前へと飛びたかった。
前へ前へ……
戦うために……
みんなを守るために……

一歩踏み出そう。




 真剣の練習用として開発されたフェンシング。
パパの滞在期間中、良く試合も応援しに行っていた。

サーベルを見ていると、思い出が蘇ってくる。


鋭く研ぎすまされていたであろう剣先は錆ていた。

それでも骸骨相手なら問題ないと思った。