ヴァンタン・二十歳の誕生日

 その時ハーフパンツの中で携帯電話が鳴った。
と言うか……
振るえながら微かに唸っている。


(そうだマナーモードにしておいたんだ……。えっ嘘!? そんな馬鹿な……)

私はただ呆然としていた。

私何も考えられなくなっていた。


(此処は十年前じゃないの? 何故十年後のガラケーにかかってくるの?)

怖さが躊躇いを誘発する。それでも私は携帯のカバーをそっと開けた。




 それは雅からのメールだった。


『ウチの兄知らない?』


(何だ!? ウチの兄? ……って雅に兄弟が居たの? あっ確かフェンシングの会場で……)




 『此処には居ないよ』
とりあえずそう返した。


(雅にお兄さん!? 本当にそんな人居たかな?)

私は本当はまだ納得していなかったのだ。




 (フェンシング?)


私はさっきの太刀の構えを思い出していた。


(私フェンシングでもやっていたのかな?)

ふとそう思った。


もう一度太刀を構えてみる。


(やはり……様になっている)

私は自分に自分ではない何かを感じ始めていた。




 甲板に戻り耳を澄ませてみた。
微かだけど音がしたように感じたのだ。