ヴァンタン・二十歳の誕生日

 (そうだ。携帯電話があった)

船底を探検する為に、何か灯りがあればいいと思った時突然閃いた。

私は早速ポケットに手を入れた。


(あれっ!? 何時の間に?)

それはチビの枕元で見つけた手鏡だった。


(チビが持ち込んだ訳じゃなかったんだ。ま、勘違いって事もあるさ)

照れ笑いをしながら、取り出した携帯のカバーを開けた。




 (そうか。此処に来るために防水だったのか!? 雅との長電話のためじゃなかったんだ)

忘れていたはずだった。
でも本当は知っていて……


(全てがこのためだったのか?)




 まず、節約のために照らす時間を短く設定してから探索へと足を踏み出した。


船底には誰も居ないように思われた。


(おかしいな?)

何故かそう思った。

奥にある大きな玉のような物が、暗闇に馴れてきた私の目に写った。

そしてそのすぐ傍には長い筒。

早速カメラ機能で携帯の画面に映し出された映像を確認した。
それはパイレーツ映画で見た砲弾その物だった。


(此処は弾薬庫。間違いない! きっと海賊船だ!)

私は自分の想像に頭を抱えた。


(まだそうだと決まった訳でもないのに)

私はもう一度弾薬庫を見つめた。


「あれっ?」
私は何故か首を傾げた。

何かが足りなかった。
海賊なら太刀とか、刀系の武器があるはずなのに……

何も無かったのだった。


私は取り越し苦労だったと思っていた。




 誰も居ない船。
そして弾薬。


(もしかしたら本当に海賊船?)

もう一度そんな考えが脳裏に浮かんだ。
そしてある事を思い出す。


(そうだ……パパが襲われたのも海賊船だった……でも……誰も居ないなんて……嵐でも来て逃げだのかな? パパも一緒に? この船にパパが居ると思ったのに……だからあんなに頑張ったのに……)


私は呆然としていた。




 ゆっくり進む海賊船?

でも帆は畳まれたままだった。


(あれっ、この船に乗組員は居ない筈。帆もこんな状態じゃ。そうだ、この船は一体何で動いているんだ?)

私は耳をすませた。

何か音がしないかと思って……

動力は帆か?
それとも……?


私はそれを確かめようとして慌てて甲板に戻った。