竜太郎は薫の言うことを、すでに話半分で聞いておこうと考えていた。
竜太郎にとって、余りに突飛だと思う話ばかりではそれも無理はない。

それでも竜太郎は敢えて聞いてみた。
「薫、さっきカッちゃんが悪巧みしてそうだって言ったよな。その“悪巧み”て何だと思ってるんだ?」

「う~ん…これはホントに想像だから、余り真に受けないでほしいんだけど…杉田って人、お店乗っ取ろうって考えてるかもよ」

「乗っ取る?」

「うん。だってあの人、元々はお店持ちたがってる人だって、竜太郎言ったよね。お母さんがもし“お店譲る”なんて言ったらシメシメよ。楽に一軒店を持つことができるんだから」

薫のその発言には、竜太郎はさすがにもう笑うしかなかった。
「ハハハッ。薫、映画やTVの観過ぎだ。いくらなんでもそりゃないよ」

「だから余り真に受けないでって言ってるじゃん」
薫は少しムッとした顔をする。

とはいえ、全くあり得ないことではない。
事実、いまの『らあめん堂』は杉田が店主みたいなものだからだ。
それに店が完全に杉田のものになったら、継ごうかどうしようか考えるどころではない。

ふとあの“10円玉占い”が、竜太郎の頭の中をよぎった。