従って、こんな駅の“駅前商店街”などたかが知れている。

煙草屋、文房具店、八百屋、靴屋、菓子屋などの個人商店が10軒ほど建ち並んでいる程度の、非常に小規模な商店街である。

更にダメ押しで、丁度その頃商店街から自転車で10分程度で行けるところに、大きなスーパーが出来上がってしまった。
そのため、この町の住民たちは殆どそのスーパーを利用するようになり、商店街はこのところ常に閑散とした状態であった。

店主はヒマそうに店先で呑気に煙草を吹かし、隣の店主と雑談を交わす。
やはり話題はプロ野球が中心だ。

「昨日のナイター観たか?」

「ああ、ダラしねえなあ、巨人は」

「でもよ、あんなとこで王を敬遠するなんて汚ねえよ」

「いや、ありゃしょうがねえ。巨人の打線が王一人に頼りっきりってのが情けねえよ」

こんな会話が飛び交うだけの商店街。
とにかく活気のないことこの上ない。



しかしそんな商店街に、夕刻突然怒鳴り声が鳴り響いたのである。

「いちいちうるせえんだよ、おめえは!」

「今日は言わせてもらうからね、あんた!」

声の出どころは決まっている。
小さなラーメン屋『らあめん堂』である。