そんな竜太郎の心情を察し、幸子が言う。
「でも竜太郎、高校行かないなんて考えちゃダメよ。せっかく勉強して入ったんだから」

「でも家がこんな状態じゃ、楽しく高校に行けるわけないじゃないか」

「そんなことない。新しい友達ができればきっと楽しいって。それにあんたが高校行かなくなったら、母さん悲しいよ。これ以上母さんを悲しませないどくれ」

「でも母さん一人でこの店どうやってやってくんだよ。働かなきゃお金稼げないし」

「お金は心配しなくていいの。あの人のがろくになくても、母さんいっぱい貯金してあるんだから。高校三年間分の学費くらい払えるわよ。ね、わかった?」

「…うん、わかったよ」



この事件の噂は、瞬く間に商店街中に広まった。

「もう『らあめん堂』にゃ何も起こらねえと思ったんだがな。まさかこんなことになるなんてよ」

「サッちゃんが出てくんならまだしも、ゲンさんが出てっちゃうんなんてなあ」

「店はどうするんだろ?」

「さあな」

「まあどうなるにしても同じ商店街同士だ。大したことはできねえが、とにかくみんなでサッちゃんやリュウちゃんを励ましてやろうじゃねえか、なあ」