源太郎が全くの予兆もなく突然家出した。

早朝幸子が目を覚ますとすでに源太郎の姿は無く、居間のテーブルの上には書き置きがあった。
それを読んだときの幸子の驚きは、とても言葉では言い尽くせない。
余りの衝撃に気の強い幸子でも、暫くは放心状態に陥った。

入学式のあった昨日は土曜日。
この日は日曜日のため、竜太郎は朝9時に起床し、下に降りてきた。

店を開ける準備もせず、居間でボーっと座っている母親、加えて父親の姿が見えないことから、イヤでも異変を感じた。

「母さんどうしたの?それに父さんは?」
竜太郎が尋ねる。

ワンテンポ遅れて幸子が口を開いた。
「父さん家出しちまったんだよ」

「えっ!それ、いつだい?」

「そんなの知るもんか。今朝起きたらもういなかったんだよ」

「いつ出てったんだろ?全然わからなかった…」

竜太郎は深夜3時までは確実に起きていた。
ラジオ放送を聴いていたからだ。

幸子はいつも朝6時半には起床する。
従ってそのわずか3時間余りのうちに、源太郎は衣類などの最低限の荷物を持って、素早くこの家を飛び出していったのだ。
おそらくこの日の決行を以前から計画していたと考えられる。