そのことがあってから、竜太郎の漫画を描く意欲は急速に萎んでいった。
これではいかんと無理にペンを握ってみるが、アイディアは全く浮かんでこない。
執筆する情熱が自分に対してより、いつの間にか美登里に対するウェートに多く占められていたため、やはりその反動も大きいのだ。



二学期に入って早々、日本中が待っていた歴史的瞬間が訪れた。
王貞治が、ついに756本の通算本塁打世界記録を達成したのだ。

商店街の人々は大騒ぎ。
そして王の大ファンである竜太郎も、当然歓喜した。
しかし失恋のショックがまだ尾を引いていたため、100%心の底から喜んだわけではなかった。

そんな竜太郎を、黒部は必死に励ます。
「なあリュウちゃん、元気出しなよ」

「うん…」

「漫画を描く気になれなくなったのはしょうがないと思うけどさ、だからって全てやる気を無くしたらダメだよ。リュウちゃんにはまだ他にちゃんとやらなきゃいかんことがあるだろ」

「他に?」

「受験勉強さ。決まってるだろ。漫画のことはいまは置いといてさ、そっちに気持ちを集中させるべきだよ。失恋して全てダメになるなんて、男としちゃ情けないぜ」

「うん…そうか、そうだよね」