余りの急展開に、竜太郎は暫くその場を動くこともできなかった。
頭の中は一向に整理がつかず、思考も停止してまさに真っ白。



やがて一時間。

竜太郎はようやく動き出す。
寝室に行って部屋着に着替えるためだ。
だがその動作はかなり鈍い。

脱いだズボンをクローゼットにしまいかけたとき、ポケットから何かが落ちた。



ん?なんだ?
…あ、10円玉か。



竜太郎は手で拾い上げ、まじまじと見た。
薄汚れた、何の変哲もない10円玉である。



あれ?10円玉って、確か“10円”の面がウラで、“平等院”の面がオモテだったよな…



こんなときになぜそんな呑気なことを考えてしまったのか、彼自身にも理解できなかった。

ふと、竜太郎はその10円玉の製造年が“昭和五十二年”と記されているのに気づく。



昭和52年…俺が中学三年生のときか。もう30年以上も前なんだな。



すると、彼の頭の中に当時のことが鮮明に蘇る。

父、母、タカさん、商店街の人々、老人、そして10円玉占い…



そうだ、あのときの10円玉は一体どこに消えたんだろう?