源太郎の声は小さく、竜太郎のいるところからではさっぱり聞き取れない。
ただ、普通の世間話などではないことだけは確かだ。
息子に近づくな、という警告でもしているのだろうか。

父親の怒りっぽい性分はよくわかっている。
だから相手がお年寄りだとはいえ、カッとなって掴みかかっていく可能性もある。
竜太郎はハラハラしながら二人を見守った。

だが、10分もしないうちに源太郎の話しは終わる。
先ほどまでの険しい表情からは一転、肩を落とし元気のない様子だ。

そして脇に停めてあったバイクにまたがり、あっという間にその場から離れていった。
竜太郎は、一人ポツンと佇んでいた老人に話し掛けようと、彼のもとへ足早に近づいていった。

「あの…」
と竜太郎が呼び止める。

振り返った老人は、途端に笑顔を見せた。
「ああ竜太郎君か」

「さっき父と話してましたよね」

「ん?まあ、話しをしてたというか何というか…」

「やっぱ父に警告でもされたんですか?」

「警告?なぜそんなことを聞くんじゃ?」

「初めて三間坂さんに会った日に、父にそのことを話したんです。そしたら“あの人は詐欺師だから信用するな”て言われたもんですから」