あの気丈で明るい幸子が店に立っていないだけで、事態が深刻化しているのは明らかだ。
これまで、どんなに言い争いをしようとも、店には常に夫婦一緒にいるのが『らあめん堂』だったのだから。



そんなある日、竜太郎は放課後のクラスメートとの談笑で、また帰りが遅くなってしまった。
だが今回は友達と話し込んでいたのと質が違う。
話し相手が女子二人だったからだ。

二人は怜子と美登里。
特に美登里の方は、二重瞼の綺麗な目をした美人で、クラス内にファンも多く、竜太郎もその一人だった。

二人とも漫画が好きで、竜太郎の描くギャグ漫画の愛読者。
そこに登場するしゃべる猫の“三太郎”というキャラクターが大のお気に入りなのだ。

「三太郎ってホントに可愛いよね。猫なのにダンスするとこなんか最高に面白かった~」
前日読んだ最新作の感想を美登里から聞かされ、竜太郎はすっかり有頂天。
もっともいまは、その美登里に喜ばれたい一心で、竜太郎は執筆にシャカリキになっているのだが。

とにかくハイテンションの竜太郎は、トークがいつになく冴え渡る。
時間を忘れ、あげくに先生に「早く帰ろ!」と怒られる始末。
でも本当に楽しいひとときであった。