「君は何か他に目標があるのかね?」
と老人が尋ねる。

「俺、漫画家になるのが夢なんです」

「ほう漫画家か…。残念じゃが、わしの頭ん中には漫画家になる君の姿が浮かんで来ないんでな」

「なあんだ…」
竜太郎はガックリと肩を落とした。
占ってもらおうという意欲が急速に失せていく。

「じゃがせっかくの機会じゃ。やってみなさい」

「でも結局はそのどっちかにしかなれないんですよね」

「いやいや、必ずしもそういうわけではない。ただ、出た結果の方の道に進めば成功すること間違いナシじゃ。ほれ、やってみなさい」

老人に煽られ、竜太郎は仕方なくやることになった。

老人は付け加えて言う。
「平等院の面が出たらラーメン屋、数字の面が出たら会社員じゃ。よいな」

「はいはい、わかりましたよ」

気乗りがしないまま、半分ヤケになって竜太郎は10円玉を上にはじく。
しかし手元が狂ったせいで、10円玉は考えてもみなかった右斜め前方向に飛んでしまった。

「あっ!」
と竜太郎は思わず声を出し、慌てて手を差し伸べた。

だが10円玉は地面に落ち、不規則なバウンドをしながら転がっていく。
そして公園の草むらの中へと消えた。