夜9時になると『らあめん堂』の看板も灯が消える。
コンビニなどの終夜営業の店など無いこの時代である。
どの店も皆夜は早かったのだ。

人々の生活サイクルも、いまと違って朝型。
特に地方の小さな町なら尚更だ。
夜11時を回れば車の通りも殆ど無くなり、どの家も灯りが消えて辺りは真っ暗になってしまう。

夜早く寝て、朝早く起きる。
この時代の、この町の、ごく当たり前な生活習慣であった。



営業終了時間を待ってましたとばかり、源太郎はレジからこの日の売り上げの一部を掴み取ると、陸上ランナー並みの猛スピードで外へ出て行ってしまった。

「ちょっとあんた!」

幸子の怒鳴り声は、源太郎の耳にはまったく届かない。
届いたのは竜太郎の耳の方にである。

居間でのんびりとTVを観ていた彼は、幸子の声に驚いて急いで店側に出てきた。
父の姿が見えないことで、母親に当たり前なことを尋ねる。
「あれ?父さんもう出かけちゃったのかい?」

幸子はそれには何も答えず、はぁ~っとため息をつく。
そして黙って片付けをし始めた。

店内では、ラジオのナイター中継が空虚に流れる。
今日は巨人のワンサイドゲームである。