7月、いよいよ『らあめん堂』が20数年ぶりの再オープンに向けて動き出した。
ガランドウだった店舗に、カウンターや厨房設備などが設置され、次第に店の形を取り戻していた。

オープン予定日は9月初旬。
それまで竜太郎は、源太郎からラーメン作りの一から十までを徹底的に叩き込まれるのだ。

店の経営者はあくまで竜太郎だが、オープンしてから当分の間は、実質の店主は源太郎である。
ラーメン作りはズブの素人の竜太郎は、父のサポート役として実践を踏みながら修行していかなければならない。
そして竜太郎が本当に店の中心に立つ時期については、全て源太郎の判断に一任することとなった。



いま、竜太郎は汗だくになってラーメンの試作に励んでいる。
源太郎に怒鳴られたり、逆に褒められたりしながら、『らあめん堂』の味をマスターしようと奮闘中だ。

竜太郎の心は充実感でいっぱいであった。
こんな気持ちは漫画を描いているときや、会社員として働いているときには決して味わえなかったものだ。
やはり自分の目指すところはこれだったんだな、と改めて感じる。
また、薫の言った“目標が違う”という言葉の意味もしっかりと噛み締めていた。