「はい」
竜太郎は力強く答えた。

「君やお父さんにはもう会うこともないじゃろ。でもわしは君らのことはずっと見守っておるぞ」

「天国で、ですね」
竜太郎はニコッと笑い掛けた。

老人も満面の笑みを返す。

竜太郎は最後に一つ、重大な疑問を思い出した。
「ところで“三間坂”っていう風変わりな名字、それには何か深い意味があるんですか?」

すると老人は豪快に笑い飛ばした。
「ハッハッハッ、深い意味なんてありゃせんよ」

「でも“三つの間にある坂”なんて、なんか神秘的じゃないですか」

「いや~そんな風に考えてくれたとは、かえって申し訳ないのう」

「じゃあ単なる思いつきなんですか?」

「いや、思いつきというよりも、わしのほんのちょっとした“遊び心”なんじゃ。そんな程度で名字をつけてしまったんじゃよ」

「遊び心?」

「“三間坂”を別の読み方にして並べ替えてみなさい。答えは実に下らんものじゃよ。ハッハッハッ」

竜太郎は首を傾げた。

「まあ後でじっくり考えてみなさい。では、達者でな、竜太郎君」

「三間坂さんもお元気で」

老人は立ち上がり、軽快な足さばきで玄関ドアから出ていった。