竜太郎の父は名を源太郎という。このとき46歳。
社交的なタイプではないが、江戸っ子気質的なところがあって、商店街では“ゲンさん”という愛称で親しまれている。
もっとも、いまのように夜遊びが盛んになってからは、白い目で見られるようになってしまったが。

母の名は幸子。源太郎の6歳下だ。
男っぽいところがあるがなかなかの美人。愛称は“サッちゃん”。

源太郎は26の時この店を開業。
だから『らあめん堂』はもう20年になる。

開業して数年後、源太郎は小料理屋の娘・幸子と見合い結婚をし、その2年後に竜太郎が生まれた。
子供は竜太郎一人である。

以前は喧嘩など全くしなかったのだが、竜太郎が中学に上がったあたりから夫婦仲がおかしくなり始めた。
原因はもちろん、源太郎の夜遊びだ。

何せ、ほぼ毎晩飲み歩いては朝帰り。
店の準備や片付けを、幸子にばかりやらせる始末。
そしてこの日のように、見知らぬ女からの電話が来たとなれば、幸子の怒りも当たり前である。

だが本来は非常に真面目なタイプの源太郎だ。
その彼が、なぜ突然こうも変わってしまったのか?

それは、当時のこの商店街における“最大の謎”であった。