「タカさん、いつもありがとう」
お金を受け取り、竜太郎は黒部に礼を言う。

その言葉には、よく注文してくれることと、しょっちゅう両親の喧嘩の止め役になってくれることの、二つの感謝の気持ちが込められている。

「なあに、別にそんな礼なんて。リュウちゃんとこで喧嘩が始まるとな、なぜか急にラーメンが食いたくなっちゃうんだよ。つまりこれが条件反射ってヤツさ。どうだ?勉強になったろ」

竜太郎は大声で笑い転げた。

「でもタカさん、今日はよっぽど腹減ってんだね」

「ん、なんで?」

「だってラーメン2つも注文するなんてさ」

「ああ、そっちはリュウちゃんの分だよ」

「えっ?」

「夕方って結構腹減るんだよな。だから食べなよ」

「もらっていいの?」

「まあ自分とこのラーメンなんて食い飽きたかもしれないけど。客の感覚で食うとまた一味違うもんさ。こういうのもタマにはいいだろ」

「ありがとう!タカさん。ホントは俺、もう腹ペコなんだ」

「じゃあ早く食べな。のびちゃうよ」

「いただきま~っす」

ズルズルと心地よい音を立てながら二人は麺を口に運ぶ。

家で食べるよりなぜかずっと美味しいな、と竜太郎は思った。