翌朝9時、目を覚ました竜太郎が階下に降りると、源太郎が家の電話で誰かと話していた。
そばにいた幸子に聞くと、いま勤務している店に電話しているという。

「はい、わかりました。じゃ明日」
源太郎はそう言って電話を切った。

「どうしたんだ?父さん」
竜太郎が聞く。

少し困った顔で源太郎は答えた。
「明日店に行かなきゃいけなくなっちまったんだよ」

「明日?ずいぶん急だな」

「いや、元々3日くらいしか休み貰ってなかったからな。で、あと3日ほど休み貰おうと思って電話したら店主がダメだって言うんだ。従業員が一人風邪で休んじまったらしい。まったくいまの若えヤツは体がヤワくていけねえ」

「じゃあ今日中には帰らんとマズいな」

「まあな。とりあえず一週間くらい働いたらまたすぐ戻って来る。だから幸子、心配すんな」

幸子は呆れ顔を見せる。
「心配なんかしちゃいないよ。そのままずっと出たっきりでも構わんさ。昨日もそう言ったろ」

ホントはスゴく寂しいくせに、まったく母さんは強がりだな、と竜太郎は腹の中で言う。

「竜太郎、今日はまた出掛けるのか?」
源太郎が聞いてきた。

「いや、まだ何も決めてないけど」