妻が突然家を出てしまったのを機に、実は本当はラーメン屋を選んだ方が成功する道だった、ということを竜太郎に知らしめることで、彼の心の中に踏ん切りがつく。
そして彼は久しぶりに父と再会し、ラーメン屋の道を歩み始める。

老人はそんなシナリオを描いたのだが、肝心な竜太郎の方にラーメン屋を始める決断ができないとは、全くの予想外のことであった。

「三間坂さんには申し訳ないけど、10円玉占いの結果なんて、やっぱり知らない方がよかったんじゃないかと思うんです」

「いや、それは違うぞ、竜太郎君」

「なぜですか?」

「君は大事なことを一つ忘れとる。10円玉占いの結果は、それを思い出させる重要なものじゃ」

「大事なこと?それは俺がラーメン屋をやろうって思ったことを言ってるんですね」

「そうじゃ」

「俺がラーメン屋に興味を持ったのは、たまたまウチがラーメン屋だったからですよ。父が身近でラーメン作ってりゃ、自然とそう考えるもんでしょ。それに父も母も、俺が子供の頃から“お前はこの店を継ぐんだぞ”て言ってましたから。周りの環境から必然的にそう考えるようになっただけです」

「そうかな?」

「そうですよ」