間もなく例の公園に差し掛かる。
竜太郎は立ち寄って、ベンチに腰掛けた。

あれこれ考えるのはいまはさて置き、昨日ブックセンターで買った小説を読むことにした。
時折穏やかな風が吹いて実に心地よい。

20ページほど進んだところで携帯が鳴った。
表示は“公衆電話”だ。
竜太郎は即座に老人からだと思った。

「もしもし」

「どうじゃな、竜太郎君。久しぶりにお父さんと会った感想は」
老人の口調は相変わらず穏やかだ。

「ビックリしましたよ、あんなに元気で。それにずっとラーメン作りをやってたなんて」

「お父さんは本当によく頑張った。過去自分の犯した間違いを全て清算したんじゃよ」

「後は俺が決断するのを待つだけってわけですね」

「そうじゃ。まだ君は決めかねておるようじゃが」

「その通りです。踏ん切りがつかないんです」

「一体何が引っかかっておるんじゃ?」

「三間坂さんはもうわかってるでしょう」
竜太郎は少し皮肉っぽく言った。

「おおよそはの。わしがお膳立てした道を歩くのに抵抗があるんじゃろ」

「そうです。自分で決めた道じゃなきゃ、どうにも納得できないんですよ」

「う~ん…」
と老人は唸る。