次の日、竜太郎はまた早めに外出しようとしていた。

幸子は思わず呼び止めた。
「少しは家でゆっくりしてりゃいいのに」

「天気がいいし、近所をブラブラして気分転換するのに最適さ」

そこで源太郎が口を挟む。
「お前、俺や母さんにヘンな気ィ回してんじゃねえだろうな」

竜太郎はニッと笑みを見せた。
「気を回して当然さ。だって30年ぶりの夫婦対面だろ。一日や二日じゃとても埋め尽くせないんだ。夫婦水入らずを充分満喫しなよ」

幸子は少し苦笑する。
「もう飽きたよ、この人と二人でいるのは」

「またぁ母さん、そんな心にもないことを。とにかく昨日みたいに晩飯までには帰って来るからさ」
そう言って竜太郎は家を出た。



実際竜太郎は、源太郎と長く一緒にいるのがつらかった。
三間坂老人の知らせを受け、心を踊らせて久方ぶりに家に帰って来た源太郎は、竜太郎の決断をいまかいまかと待っているのだ。
まだラーメン屋をやる決心が着かない竜太郎は、そんな父の顔を見るのが苦痛だったし、つい焦りも感じてしまう。

いまは一人でじっくりと考えたい。
そして自分が本当にその気になるまで待ちたい。
竜太郎はそう思っていたのである。