秋、竜太郎の就職先が決まる。
都内にある精密機器の製造工場だ。
独身寮もある。

暮れには担任の教師と工場への挨拶を済ませ、寮の入居は3月21日と決まった。
いよいよ東京での一人暮らしだ、と竜太郎の気分も高まる。

この間、竜太郎は『逆転惑星』というSFギャグ漫画を描いて再びコンテストに応募するが、またも最終審査で落選。
しかし当然、漫画への情熱は少しも失われることはなかった。



中三の時に出会ったあの爺さんは、漫画家になってる俺の姿はイメージに浮かばない、と言った。
得体の知れない老人だけど、なぜか言ってることに重みを感じたし、信用できると思った。

だから俺が漫画家で成功する可能性は低いだろう。
でも俺は成功率の高いラーメン屋か会社員の道を敢えて選ばなかった。
自分でこれだと決めた道が漫画家だったからだ。

それでいいんだ。
成功するからと言われて好きでもない道を歩いたって、それで一体何になる?
そんなの自分の人生じゃない。

母さんや周りが何て言おうと、これは俺が決めた道だ。
親父みたいに後でグチグチ言ったりなど、俺は絶対にしない。

竜太郎はそんな思いを心に深く刻み込んでいた。