すると黒部はそんなバカなという顔して言った。
「あのカッちゃんがかい?それは考えられんなあ。カッちゃんとはよく話しをしたり、タマに飲みに行ったりしてるけど、全然そんなタイプじゃないぜ」

「カッちゃんにその気がなくても、お袋が“店を譲る”て言い出すかもしれない」

「でもリュウちゃんは跡継がずに漫画家を目指すんだろ?」

「最近また悩んでるんだ。ラーメン屋もいいかなって」

「なるほど。人の店になっちゃったら継ぐも何もないもんな」

「俺がハッキリと店を継ぐって決めた方がいいのかな」

「う~ん…。とりあえずさ、まず風邪を治して、それからお袋さんに直接聞いてみるのが一番だと思うよ」

「やっぱりそれしかないよね」

黒部と話しているうちに、竜太郎は次第に気分がよくなっていった。
やはり竜太郎にとって黒部は“兄”、或いは“父親”みたいな存在なのだ。

やがて竜太郎は、黒部に礼を言って出入口に向かう。
ホットミルクのおかげで寒気も和らいでいた。

「じゃあなリュウちゃん。ゆっくり寝ろよ。あ、それと、ヤケになるなよ」
と言って黒部はニコッと笑みを見せる。

「うん、わかってるよ」
竜太郎も笑みを返した。