「そうか…あ、ちょっと待ってな」
そう言って黒部は一旦事務所を出る。

数分後、彼は大きめのカップに注がれたホットミルクを、竜太郎に差し出した。

竜太郎は礼を言ってそれを飲む。
たちまち体中がポカポカと暖かくなり、気分が少し楽になった。

やがて竜太郎は、つい先ほど見たばかりのことをそのまま黒部に話す。
意外にも黒部は大して驚いてない様子だった。
商店街でそういう噂がすでに立っていたのかもしれない。
或いは黒部自身がすでに二人をあやしいと思っていた可能性もある。

「そりゃリュウちゃんにしてみたらショックだろうなあ」

黒部はまずそう言って話しを続けた。
「でもさ、ちょっと冷静になってお袋さんの気持ちを考えてみなよ」

「え?お袋の?」

「親父さんが突然いなくなって一番寂しいのはお袋さんだろ。誰かにすがりつきたくもなるさ。親ったって中身はみんなと同じ人間だ。だからカッちゃんと付き合って元気になったんならそれでいいじゃないか。違うかい?」

「まあそうだけど…それよりも店のことが心配なんだ」

「店?どういうことだい?」

「このままカッちゃんに店を横取りされちゃうんじゃないかってことさ」