やはり薫のカンは的中してしまった。
幸子と杉田はデキていたのだ。

竜太郎の位置からは、身を寄せ合っている二人の背中しか見えないが、もうそれだけで充分だった。
その場にいることに耐えられず、竜太郎は再び外へ出た。

それにしてもあのときの母の甘えた声、竜太郎がこれまで一度も聞いたことのないものだ。
その声を思い出すと気分が悪くなってくる。
竜太郎は自分が風邪をこじらせているのをすっかり忘れ、商店街を足早に歩くのだった。



無意識のうちに、竜太郎は『黒部サイクル』に来ていた。
入口付近で精気のない顔をして立っている竜太郎を見て、黒部が慌てて出てきた。

「どうした?リュウちゃん」

「あ…タカさん…」

その様子から、ただ事ではないとすぐわかる。
黒部を即座に竜太郎を中へ入れた。

いつも殆ど、自転車の並んでいる店内で話しをするのだが、今回は奥の小さな事務所で話すことにした。
椅子に座ると、竜太郎はゴホゴホと咳を漏らす。

「リュウちゃん、風邪か?」

「う、うん。だけど大丈夫。大したことないから」

「そうには見えないぜ。早く家に帰って寝た方がいいよ」

「そうだけど…いまはまだ帰りたくないんだ」