そして声の主は『らあめん堂』の主人とその女房だ。

「俺がどこで飲んでいようが、そんなの勝手だろ。なんでそんなの、いちいちおめえに言わなきゃならねえんだよ」

「じゃあさっきの女からの電話は何?そんなのがかかって来るからこうして言ってんだよ」

「だから知らねえモンは知らねえ。そう言ってるだろうが」

「嘘!トボケないでよ、あんた」

「うるせえな、いいかげん黙れってんだ!」



閑散とした商店街のため、二人の声は余計にハッキリと聞こえて来る。

「やれやれ、また始まったか」
靴屋の店主がボヤく。

「確か一昨日もあったよな」
と煙草屋店主。

「毎日だ。こういうハデなヤツは二日に一回くらいだけどよ。小競り合いは毎日。まいるよ」

靴屋は『らあめん堂』のすぐ隣り。
だから気の毒なことこの上ない。
そしてこの日はせっかく煙草屋の店主と野球談義で盛り上がっていたというのに、これでは話しに全く身が入らない。

道を挟んだ向かい側の菓子屋の店主もひょっこりと姿を現す。

ご多分に洩れず、菓子屋もまたヒマなのだ。
しかもこの店主、大のトラブル好き。
どんな町にも、こういう男は必ず一人はいるものだ。