2008年春。
勤続20年の笠松竜太郎は、営業部の部下を8名ほど連れ都内某所で飲み会を開いていた。
ゴールデン・ウィークが間近に迫り、社員たちは皆どこかウキウキしている。
特にこの春社会人になったばかりの新入社員のはしゃぎ様はハンパではない。
居酒屋での一次会では奇声を上げて大騒ぎ。
そして二次会のカラオケでは、竜太郎にはさっぱりワケのわからないJーPOPを、マイクが割れんばかりに歌いまくっていた。

そんな騒ぎ方を見ても、竜太郎は不思議と鬱陶しさを感じることはなく、むしろ若いエネルギーに爽快感すら覚えた。

自分にもこんな時期があったな。
若いってのはいいもんだ。
いや、俺だってまだまだこれからさ。

「部長!」
突然元気な声が割り込んできた。
入社5年目の倉本である。
「部長も何か歌って下さいよ」

「いや~、俺はいいよ」

「私、部長の歌聴きたいなあ」
今度は横から入社3年目の女子社員・白川である。

彼女の登場により、倉本は押しを強めた。
「そうすよ、部長は歌上手いじゃないすか。まだ聴いたことのないヤツ、ここにいっぱいいますよ。バシッとキメちゃって下さい」

「でも歌えるのは古い曲ばっかだぜ」