すでに慣れ親しんだ潮の香りが、気持ちのいい海風にのって漂ってきた。

「いよいよ、今日で最後ですね」

背後でアルの声がする。夏海が振り返ると、
いつものように彼とヒミコが、すぐ後ろの席にいた。

「思い残すことのないように、ゆっくり大翔さんと話をしてきてください」

アルはいつになく優しい眼差しを向けた。

「はい、ありがとうございます」

夏海はぺこりと頭を下げた。

この一週間、彼女は大翔と最後に何を話そうか、ずっと考えていた。
自分はもう新しい恋を見つけたことを、告げようかとも思った。

大翔は動揺するかもしれないが、内緒にしたまま最後の時を過ごすのも、
なんだか良心がとがめるからだ。

しかし、事前に相談を受けた菜々子は首を横に振った。