「ああ、なんだか喋りすぎてしまったわ。
でも、他の人にはとてもできないようなお話ができて、楽しかった。

長居してごめんなさいね。そろそろ失礼します」

残った茶をきれいに飲みほして、湯呑に残った薄い口紅の跡を
指でふき取ると、彼女は立ち上がった。

「若い時は本当にあっという間に過ぎてしまうんだから、
いろんな人と恋をしなさいって、そのお嬢さんに伝えてね」

「はい」

アルも客人を駅まで送るために席を立つ。

「ああ、それから」

ふと思いついたように、夫人がにっこり笑って付け加えた。

「もし本当にそのお嬢さんが”一夜妻”になるようなことがあったら、
その日はウチでセイちゃんをお預かりしますよ。
遠慮なく言ってちょうだいな」

「・・・お気遣いありがとうございます」

「ヒミコちゃん、バイバイ」

夫人のあいさつに、ヒミコは黙ったまま、黒い目をぱちくりさせていた。