「私なんて、男性は亡くなった主人ひとりしか知らないんですよ。
親に言われてお見合いしたら、あっという間に結婚が決まってしまって。

ドキドキしながら初めての夜を迎えたら、あなた、
主人も未経験だっていうから・・・一回目は本当に大変でした」

「・・・」

セイがいないのをいいことに、夫人の口はどんどん滑らかになる。

「あなたが本当は誠実で優しい方だってことは、
私はよく知っていますよ。そのうえ、美形だし。


私だって、もっと若かったら、一夜妻にしてほしいぐらいだわ」

「あはは」

アルは笑うしかない。

「もし、生まれ変わりというものがあるなら、
私は来世では絶対に結婚なんかしません。
若いころからもう、ドンドン遊んで浮名を流してやります・・・
あ、そうだ」

急に何事か思い出したように夫人はバッグを開けて、
ごそごそと中を探った。

やがて紫色の袱紗を取り出してテーブルの上で開くと、
中から小さなビンが現れた。

青いカプセルが一錠入っている。