この兄は低血圧のためか、寝起きも相当悪い。
毎朝目覚ましのアラームが彼の枕元で三分おきに五回、隣の住人から
クレームがくるような大音量で鳴り響くのだが、
それで起きたためしがない。

今朝もセイが兄の体をゆすったり、平手でぺしぺし顔をたたいたりして、
やっとベッドから引っ張り出した。

「ゆうべは遅くまで、いったい何をしていたの」

「・・・」

ちょうどその時、テーブルに置いてあったアルのスマートフォンが、
ピンク色の声で着メロを歌いだした。
電話に出た彼は、とたんにハイテンションな声に豹変する。

「やー美優ちゃん、おはようさん。え?もう昼?
ぜーんぜんっ気づかなかったなー。
そんなことより、夕べはどーもどーも・・・」

ぷちっと、突然電話が切れた。弟が兄の手からスマホを取り上げて
強制的に切ったのだ。

「やっぱり、女のひとと会っていたんだね。
いくらモテるからって、女性にだらしないのも、
そろそろ卒業してよね。

もういい年なんだから、奥さんでももらってくれれば、
ボクも家事の負担が減って、ずいぶん助かるんだけど」

「いや、あのね」

「言い訳はナシ。さっさと食事を終わらせて。
あと一時間で依頼者が来るんだよ」

「わーったよ」

おとなしく食事に戻るアルを、セイはやれやれという顔で見つめた。