冷房の効いた自室で、トドのように寝そべっていたアルの耳に、
セイのかん高い声が響いた。

「兄さん、篠塚さんがお見えになったよ」

突然の来客に、アルはあわてて起き上がった。

「あ、あ、すぐ行くから、お通ししておいて」

あたふたと服を着替えて髪をとかし、全身を姿見に映して
くまなくチェックする。
わずか五分足らずで、トドからイケメン霊媒師に変身して、
奥の部屋へ向かった。

ドアを開けると、明るい室内で、ピンと背筋を伸ばした篠塚夫人が
ヒミコをあやしていた。
紗紬の帯に描かれた小菊の柄が、そろそろ秋が近づいていることを
感じさせる。

そのうしろ姿を見て、さすがは茶道の許状を茶名まで持っている女性だな、
と感心しながら、アルは声をかけた。