バスを見送りながら、アルと夏海の寄り添う姿を目にした大翔の心に、
黒い影がさした。
遠目には、二人がしっかりと抱き合っているように見えた。
 

――まさか夏海は、あの男と・・・。

アルは自分など足元にも及ばないような美形だ。
夏海が彼に仕事を依頼し、言葉を交わすうちに心惹かれたとしても
不思議はない。

そういえば、アルは初めてこの浜辺に来た時、
俺のことは早く忘れて新しい恋人を見つけるよう彼女に言ってやれと、
アドバイスしてきた。

あれは、夏海のためを思って言ったのではなく、
彼女の気持ちを早く自分に向けさせたいための言葉だったんじゃないだろうか。

だから夏海は、さっきのキスの間も、どこか上の空だったのか ・・・。

一人残された浜辺で、大翔の思考はどんどんネガティブな方向へ
回路をたどっていく。

――やっぱり、このままでは逝けない。

ついさっきアルと夏海の前で宣言した立派な決意が、
早くもわらわらと崩れ始めた。