「兄さん、さっさと食事をすませてよ」

アイロンがけの手を止めて、セイが隣の部屋から怒鳴った。
アルはキッチンの小さなテーブルで、弟が用意してくれた冷やし茶漬けを
もそもそ食べている。

「もうすぐ依頼者が来るんだから。食事がすんだら歯を磨いて
服を着替えて、髪も整えなきゃダメだよ」

声変わり前の硬い高音が、寝起きのアルの頭にキンキン響いた。

「セイ、わかったから、もうちょっと声のトーンを落としてくれ。
それに・・・」

「それに・・・なに?」

刺しゅう入りの白いブラウスを手にして、セイがキッチンに現れた。
兄の食事がほとんど進んでいないのを見て、弟のイライラに
拍車がかかる。

「オレとしては、朝はご飯よりトーストのほうが嬉しかったんだが」

「なに言ってるの。もう昼だよ。兄さんのブラウス、
アイロンあてておいたからね」

セイはブラウスを空いた椅子の背にかけた。

「もうちょっと、霊能力者らしい服装のほうがいいんじゃないの。
お坊様のような格好をするとか、黒いマントをはおるとか」

「どんだけ時代錯誤やねん」

弟手製のきゅうりの漬物を、ぽりぽりと噛みながらアルが答えた。

「このクソ暑い時にそんなもの着てみろ。
いくらエアコンがきいていたって、一時間で熱中症になるわ。

だいたい、”いかにも霊能力者”みたいな大げさな服装をしている
奴にかぎって、荒稼ぎしてるイカサマ野郎だったりするんだよ」

相変わらず口の悪い兄だ、とセイはため息をついた。