バスが停まってドアが開くと、夏海はゆっくりと停留所に降り立った。
待ちかねた大翔が彼女に駆け寄って抱きしめる。

二人を残してバスが走り出した。窓からヒミコが飛び立ち、
晴れた空へ舞い上がると、じきに見えなくなった。

「夏海!あいたかった」

「わたしも」

自然と二人の唇が重なった。二年近く慣れ親しんだ恋人の唇。
だが夏海はどうしても、その冷たさが気になる。

大翔の腕に抱かれながら、夏海はアルを思い出した。

ただ決まった手順をたどるような大翔のキスとは、全く違う。
彼の口づけは、もっと熱を帯びていた。
唇の使い方の一つ一つに、意思があった。
舌の動きも、もっと・・・。

「夏海?」

大翔の顔が離れた。

「どうしたの?なんだか上の空みたいだけど」

「あ・・・いえ、そんなことないわ」

大学生の大翔を、大人のアルと比べたことを、
夏海は心の中で密かに詫びた。

「それより、このまえは、ごめんなさいね。変なこと言って驚かせて」

「うん、びっくりしたよ。でも嬉しかった。
夏海が一緒にいこうって言ってくれて」

大翔が晴れやかに笑った。