「別にヘンなことじゃないよ、彼はちゃんとした人だからね」

夏海の勘繰りを止めるように、菜々子が笑った。

「あっ・・・ゴメン」

照れ隠しに、夏海も笑った。

だが、何より大切な恋人を失ったばかりの彼女は、
ほかに大切なものと言われても、全く思い浮かばなかった。

最愛の大翔が亡くなってから、夏海はまるで魂が抜けたように
うつろな日々を送っている。
正直なところ、命さえほしいと言われれば、はずみで
差し出してしまうかもしれない。

「まあ、彼に会うだけ会ってみて、気がすすまなければ
断ってもいいんじゃないの」

「うん、とにかくその人に会って、話だけでもしてみたい」

何もしないより、そのほうがずっといい。

「じゃあ、今日ウチに帰ったら、おばあちゃんにさっそく話してみるね」

「ありがとう、菜々子。よろしくお願いします」

夏海は真剣に頭を下げた。