「ごめんね、菜々子。わたし、軽はずみなことしちゃって」

「ううん、無事に戻ってくれたから、それでいいよ。
でも、いくら指示にそむいたバツとはいえ、キスするなんてねえ」

とがめるような菜々子の口調に、夏海は違和感を覚えた。

「それが・・・その・・・わたし、
全くイヤってわけじゃなかったみたい」

「え?」

ふたたび菜々子がフォークを置いた。

「悔しくて、思わず急所を蹴って逃げ出しちゃったけど・・・
なんていうか、生きてるって実感できた気がしたの。
その・・・途中から彼のキスに自分も応えたい気持ちになっちゃって」

「おおー」

「正直に言うとね、夕べもずっと、アルさんのことを考えたり、
キスの感触を思い返したりしてた。
その直前までは、ヒロ君のことしか頭になかったのに」

ほー、と菜々子がため息とも感嘆ともつかない声をあげた。