「あの浜辺が、とても静かで穏やかで、悩みとか苦しみとか
一切無縁の場所のように見えたんです。

わたしは現実の世界に戻ったら、またヒロくんのことを思いながら
悲しい日々を過ごしていかなくちゃいけない。
だったらこのまま彼とずっとここにいるほうがいい、
ふとそう思ったんです。

ちょうどそのとき、反対側にバスが来て。
ヒロくんは一人で乗るのが怖そうだったので、その・・・
二人一緒にだったら怖くないかと・・・」

「夏海さんが女でよかった」

苦虫を五、六匹かみつぶしたような顔で彼女の話を聞いていたアルが、
口をはさんだ。

「あなたが男だったら、一発殴っているかもしれません。

世の中には、あなたより何倍も辛い目に遭っている人が大勢いるのですよ。
好きな男に死なれたぐらいで自分も後を追うなんて。

あなたはまだ若い。
これから、いろんな男性と恋をするチャンスだって、あるでしょう」