「ヒロくん、また来るね」

「あ・・・ああ、待ってるよ」

二人はアルの目の前で短いキスを交わした。
アルは夏海の腕をつかんで大翔から引き離すと、
停留所のほうへひきずって行った。

二人を乗せたバスが動き出すと同時に、反対車線の黒いバスも
しびれを切らしたように発車した。

立ちつくす大翔の姿がどんどん遠ざかる。

「夏海さん、あちらのバスに乗ろうとしましたね」

厳しい口調でアルが言った。
大翔の決心を促すために夏海が後を追うかもしれないと言ったが、
まさかそれが実現しそうになるとは・・・。

「約束を破るつもりっだったのですか」

「ごめんなさい、ヒロ君が一人で乗る決心がつかないようだったので・・・」

おそるおそる夏海はアルを見た。ただでさえ透き通るような肌が
怒りで色を失い、恐ろしいほど美しさを増している。

「まさか、あなたがこんなことをするとは・・・。

明日の午後、もう一度私のところへ来なさい。お説教です」

「・・・はい」

「もし来なければ、大翔さんに逢えるのはこれきりです」

彼女は黙ってうなずいた。

次の瞬間、夏海の意識が遠のき、真っ暗な闇が訪れた。