浮足立ちそうになる夏海に、アルが釘をさした。

「しばらくしたら私が同じバスで迎えに来ますので、
必ず一緒に乗ってください」

「はい」

「大翔さんとの再会中、反対車線の停留所に黒いバスが
来るかもしれませんが、夏海さんは絶対に、
そちらのバスに乗ってはいけません」

「わかりました」

まもなく、古びた海の家の前でバスが停まった。
停留所でハーフパンツ姿の大翔が手を振っている。
夏海の両目には、すでに大粒の涙があふれていた。

「ヒロくん!」

運転手に軽く会釈すると、二十歳になるやならずの女の子は、
転がるようにしてバスを降りた。

「夏海!」

ありったけの力をこめて抱き合う恋人同士を残し、
アルとヒミコを乗せたバスは走り去った。

「あいたかった・・・どうして、どうして・・・」

どうしてし死んでしまったの、と最後まで言い切れない彼女の言葉を
大翔が引き受けた。

「ごめんな、夏海。俺、ひとりで逝ってしまって、本当にごめんな」