潮の香りがした。

目を開けると、夏海はバスに揺られていた。

窓の外を見ると、道路に沿って白い砂浜が延々と続き、
そのはるか向こうに水平線が輝いていた。
半分ほど開いた窓から、気持ちのいい風が吹き込んでくる。

――どこの海かしら。

「大翔さんが亡くなった海です」

背後から聞き覚えのある声がした。
驚いて振り返ると、アルがすぐ後ろの席に座っていた。
左腕にはヒミコがとまっている。

「自分が死んでしまった事実を受け入れられず、
いまだに彼の魂はこの海岸をさまよっているのです。

次の停留所で降りてください。大翔君が待っています」

思い出した。

夜、セイから渡されたカプセルを一錠飲んでベッドに入ると、
まるで高速エレベータに乗って急降下するように、眠りに落ちた。
ということは、自分はいま夢の中にいて、
これからいよいよ大翔に逢えるのだ。