「今夜、眠る前に必ずこれを一錠飲んでください」

「これは?」

「まあ・・・安定剤のようなものです。
せっかくのチャンスに興奮して眠れない依頼者がけっこう
いらっしゃるので、すんなり眠れるように飲んでいただきます。

怪しい薬ではないので、安心してくださいね。
三回分、わたしておきます」

「わかりました」

夏海は受け取った小瓶をハンカチに包み、大切に
カバンの中にしまい込んだ。

「では、そろそろ行きましょうか。今日はゆっくり
お風呂に入って、早めにやすんでくださいね」

「はい。セイ君、いろいろありがとう」

二人はそれぞれのトレイを持って立ち上がった。

ハンバーガーショップを出ると、すでに西に傾きかけた太陽が
駅舎を照らしていた。

つい数時間前に初めてこの駅に降り立った時は、
失意の底に沈んでいた夏海の気持ちが、
今はほんの少し明るくなっていた。