婦人はしばらく迷っていたが、思い切ったように店の中へ入ってくると、
二人のテーブルまでやってきた。

「篠塚さん、こんにちは」

礼儀正しくセイが立ちあがって頭を下げた。
つられて夏海もお辞儀する。

「セイちゃん、こんにちは。お元気?」

ちょうどセイの祖母ぐらいの年齢だろうか。
うだるような残暑の午後に、汗ひとつかかず、桔梗柄の一重の訪問着を
粋に着こなしている。

「その節は、本当にお世話になって・・・お兄様もお変わりないかしら」

「はい、おかげさまで」

婦人は夏海に柔らかい笑顔を向けた。

「きょうは、かわいいお姉さんとおデート?すみにおけないわね」

「いえっ。この方は兄のお客様ですっ」

真っ赤になってセイが答えた。