「さっき、夏海さんは兄にずいぶん失礼なふるまいをされて、
あまり良い印象を持てなかったかもしれません」

アルにつかまれた腕には、まだ彼の感触が残っている。
華奢な外見からは想像できないような強い力だった。

「い、いえ」

「たしかに、兄はどSでエッチで、口も悪いし、寝起きも悪いです。
おまけに仕事のない時はいつも家でゴロゴロして、粗大ごみ状態。
でも、本当はとても優しいひとなんです」

ほめているのか、けなしているのか。

「夜をともに過ごすとかなんとか言ってましたけど、たぶん、
夏海さんの決心の固さを確かめるために、その――あっ」

途中で言葉を止めて、セイが窓の外に向かって手を振りだした。

だれか知り合いでも通りがかったのかしら、と夏海も外を見た。

品のいい老婦人が、店の前で立ち止まって、
セイに向かってニコニコと手を振っている。