「さっきも言ったように、彼女は憔悴しきっています。
このままでは本当に病気なってしまうかもしれません。

自分との思い出は記憶のすみっこにしまっておいて、
早く元気になって残りの人生を楽しめと、
あなたが彼女の背中を押してやれば、たとえ時間がかかっても
夏海さんは、また生きた日々を取り戻せるのではありませんか」

大翔は黙っていた。この男の言うことが正しい。
頭ではわかっているのだが。

往生際の悪い青年を、アルはちょいとおどしてやりたくなった。

「どこかでふんぎりをつけさせないと、一途な性格の彼女は、
最悪の場合、あなたの後を追うかもしれませんよ」

まさか、という顔で大翔はアルを見る。

「さあ腹を決めてください、大翔くん」

悪魔の美しい顔が、無表情で青年を見おろしていた