「大翔さんと逢う際に、私が二つ三つ細かい指示を
出すかもしれませんが、それには必ず従ってください。

もし依頼者が指示を守らなかったり、
約束を破ったりした場合は・・・」 

突然、男の手に力が入り、テーブル越しにぐいと夏海の体を引き寄せた。

「あっ」

不意をつかれてグラスの上に倒れそうになる彼女を、
絶妙のタイミングでアルの左手が支える。
前のめりになった夏海の顔は、彼の胸のあたりに
押し付けられるかっこうになった。

耳元に男の唇が下りてきて、身震いするような言葉を吐いた。

「その場合、私は何をするかわかりませんよ。気をつけてくださいね」

「わ、わたしは絶対に約束を破ったりしません」

「そう願います」

アルは彼女の体を離すと、ドアのほうをじろっと睨んだ。

「セイ、お客様がお帰りだ。お送りしなさい」

わずかに間を置いて、すごすごとセイが現れた。盗み聞きがばれていたと知り、
バツの悪そうな顔をしている。

「・・・えっと、夏海さん。お疲れ様でした。駅までお送りします」

「あ、ありがとうございました。失礼します」

夏海はアルに一礼すると、もつれそうな足取りで、
セイの後を追って部屋を出ていった。