夏海はアルに、仕事の報酬を払いに来たのだ。
兄は彼女に「一晩、妻として過ごしていただきます」と言った後、
「今のは冗談です」と言って取り消し、
報酬に関してはうやむやになっていた。
そこまでは部屋の外で立ち聞きしていた。
だが、そのあと二人の間でどういう話が交わされたのかは、
知らないままだ。
――結局、こういうことになったんだ。
朝から兄の様子がおかしかったのも、突然、篠塚さんから呼び出されて
自分が一晩家をあけることになったのも、ようやく理由がわかった。
――夏海さんは、どんな気持ちなんだろう。
その時、セイのいるホームに電車が入ってきた。
扉が開いて乗り込むと、彼はそのまま反対側の扉の前まで進み、
より近くで夏海の横顔を見つめた。
少し緊張しているようだが、決して暗い表情ではなく、
むしろどこか楽しげに見える。
恋人のために夕食を作るつもりで食材をいっぱい買い込み、
通いなれた部屋へ向かう女性のようだ。
――夏海さんは、兄さんのことが好きなんだな。
しっかりした足取りで夏海が階段を下り始めると、
すぐにセイの位置からその姿が見えなくなった。
扉が閉まり、電車が動き出した。
夏海のいる駅がどんどん遠ざかる。
――頑張ってね、夏海さん。
心の中でエールを送ると、セイは空いていた席に腰を下ろした。
兄は彼女に「一晩、妻として過ごしていただきます」と言った後、
「今のは冗談です」と言って取り消し、
報酬に関してはうやむやになっていた。
そこまでは部屋の外で立ち聞きしていた。
だが、そのあと二人の間でどういう話が交わされたのかは、
知らないままだ。
――結局、こういうことになったんだ。
朝から兄の様子がおかしかったのも、突然、篠塚さんから呼び出されて
自分が一晩家をあけることになったのも、ようやく理由がわかった。
――夏海さんは、どんな気持ちなんだろう。
その時、セイのいるホームに電車が入ってきた。
扉が開いて乗り込むと、彼はそのまま反対側の扉の前まで進み、
より近くで夏海の横顔を見つめた。
少し緊張しているようだが、決して暗い表情ではなく、
むしろどこか楽しげに見える。
恋人のために夕食を作るつもりで食材をいっぱい買い込み、
通いなれた部屋へ向かう女性のようだ。
――夏海さんは、兄さんのことが好きなんだな。
しっかりした足取りで夏海が階段を下り始めると、
すぐにセイの位置からその姿が見えなくなった。
扉が閉まり、電車が動き出した。
夏海のいる駅がどんどん遠ざかる。
――頑張ってね、夏海さん。
心の中でエールを送ると、セイは空いていた席に腰を下ろした。
