「兄さん、どこか具合でも悪いの?」

小さなボストンバッグに一泊分の着替えや洗面道具を詰めながら、
心配そうにセイが尋ねた。

「いや・・・・・別に」

弟の荷造りをぼんやり見つめる兄は、心ここにあらず、
といった様子だ。

今朝、目が覚めて自分の部屋からキッチンにやってきたセイは、
わが目を疑った。
普段あれほど寝起きの悪い兄が、自分よりも早起きして、
コーヒーを淹れていたのだ。
目覚ましのアラームが鳴る前にアルが起きたのは何か月ぶりだろう。

久しぶりに二人そろって朝食をとった後も、
いつもなら仕事のない時は居間か自室でゴロゴロしている兄が、
今日は意味もなくウロウロと家の中を歩き回っていた。

午後は少し落ちついたのか、居間に座ってテレビと向き合っているが、
目は画面を見ていない。
セイが茶を持って行っても、

「兄さん、お茶だよ」

と、声をかけるまで気づかなかった。