目の前で背中を丸めてお茶漬けを食べているボサボサ頭の兄は、
口が悪くて寝起きが悪くて、そのうえ女にだらしがない。

家では仕事以外のことは何もしない。弟が洗濯や掃除に追われていても、
居間に寝転がってぐうたらしているのだから、邪魔でしょうがない。

それが、ひとたび依頼者の前に出ると、まるで白馬に乗って
天から舞い降りた騎士のごとく変身し、相手が男であろうが
女であろうが、視線ひとつでその心を魅了してしまう。

そうして、たぐいまれな能力で問題を解決し、
依頼者は心から彼に感謝するのだ。

ただ一つだけ、困ったことがあるのだが・・・。

「ところで、ヒミコはもう来ているのかな」

「とっくにやってきて、部屋でスタンバイしてるよ。今日は依頼者が
若い女の子だから、あとでまたゴキゲンななめになりそうだね」

弟の言葉に、ふん、と兄が笑った。

「ごちそうさま。うまかったよ」

やっと食事を終えたアルは箸を置くと合掌し、
立ち上がって洗面所へ向かった。

「今日の依頼者はぴっちぴっちの女子大生だ。
”癒し系王子様”のセンでいこう。

ピアスは涼しさを演出するラピスラズリかな、
それとも清潔感あふれるパールがいいかな~」

ウケ狙いという点では、マントをはおるのとあまり
変わらないんじゃないの、と言いたいのをこらえて、
セイは兄の食事の後片付けを始めた。